円明実手流家譜并嗣系
□選
当流之権與 宮本武蔵守藤原吉元朝臣 初家信字熊法師 中頃右馬之允 慶長五庚子年二月十八日病 行年七十四歳 法名称賢誉心蓮居士 生国河内国錦郡住人
抑々吉元幼冠の此より深く士道を心懸常に師を求て手練を学び亦功有に交て武道の義理を尋ね日夜無怠工夫思惟を費し或は実手の兵法を伝へ亦□里が秘術を受く当時太君の幕府に悪て士宝軍器の勅役を主□又常に武勇の巧妙を頼す事度々也 □受天下の半明智誅戦の節数多の敵に出合身躰修羅抛て聊勇気不撓忽鑓下に於て数輩を討取る雖然其持取の月鑓を煙巻の半より敵に切られ於□そでに命を失ぬと□聊けて其先鋒を取手盾の軽業として終にりにあまたの兵を切退て万死の命を遁る此時より実手の器理を信し両剣の深底を尋ね益々心腑をくたき朝暮軍天に奉祈て兵術の明道をねかふ其時不思議の霊瑞を蒙て□疑心を離れ一法を建立して円明流と改む 伝云天正九年辛巳三月吉日三日蒙 公命木下之両字を給わる所々戦労之節皆此名を顕し入道而後聊有思慮本名宮本氏に□す累葉は皆此名を継也 伝云同十二年甲申九月吉日九日依 台命円明阿闍梨に令密談往昔伝来之軍脉宗源累代之内伝嗣也口伝 伝云同十六年戌子八月十五日聖君之請賢命氏官之一紙を奉頂戴其名武蔵守吉元と改む其後妙縁を奉て結両翼之師範と成り武術之奇道子孫に伝ゆ其時七十二歳也 伝云頃年大君之依深命□伝之 平巻備上覧其之内卯之関符御名之上を被下凡御明姓とも蒙御免也口伝伝云吉元嫡男犬千代幼而病災二男熊法師此仁は深く無常門に志有て終に遂出家円明和尚之衣下に倶て令受戒円智坊と名けり三男虎千代後に無二之介一真と云り其時慶長五年弥生初吉元病痾に伏同弟常右衛門尉吉家を近け堅く遺言め曰く吾が夙習已に至て有誠老の獲麟近けり然者当流後栄之相続依□念聊離雅意家伝相承之密器貴士に渡て末流を頼置也益々長子一真を後見め兵器をそたて当家伝来の大器双伝之巻符秘巻秘□剣箱大箱残嫡子が実器を計て可令□伝故今速に壇場を調え一子相受之神通妙器令授与此旨聊遣符之命猥に不可解然め病身日々に□労し老息時々に応め□也故に蓮生院之大道心安誉大和尚を奉請待正念に住め師を拝す吾常に当日之命終を願ひはたして心望に叶事歓喜す然者猶無常道之妙宝を願て於ココ令受戒其時上人厭離欣求の承句別而安心妙社の歓を伝語し手つから法衣を与え五重の印脉を授玉ふ吉元随喜せつにて乍座令三拝筆を乞て吟首す
かりにきてまたかりそめの花衣 色香をよしと見よやもろ人
亦当流伝授明道之筥を開き持剣を抜て令頂戴観心無乱下置再筆を染形見を残すと吟
ぬき捨て帰るすかたを誰も見よ その□けを□すみつるき
吟し終て筆を捨て十念高聲にして如眠臨終せり其時行年七十四歳也 ・平巻三十六首の内内伝の伝哥
つたへ来る代々の聖の玉の鉾 身にそゑてしる国の御宝
雲はれて輝く月の寳釼を あきらかに見る事そ尊き
神の誓ひふかき流の我国は 春勝そ久しき君か代の松
伝云円明阿闍梨は本来近江国金剛菴に住め後に南都寺院の住僧となる其俗姓浅井氏(伝云浅井は具平鹿王之系村上之源氏也)勇将長政之葉弟也有由緒遂出家軍鏡士宝之明伝を知る後に伏見に被招請守殿之(額名)南豊光蓮堂に住して三明宝珠之祈願を令満足其後猶寺菴数多建立せり元和之此法子円智を倶い遂電〆其終所知るものなし口伝 ・円明流弄哥之内云
妙なるや神のちかひはむらさきの いろふかき世の末も玉鉾
我か国の三宝の春勝を汲人は ひかりに神も立そ誓ひける
もろともに朽る形はたけれ□ 御法はつきし末の世よても
伝云内伝之大事八剣之明社を祭て運を従神儀別記委曲口伝せり 同宮本無二之助藤原一真 字虎千代丸後に武蔵守と改む 一真は前武蔵守吉元の実子なり吾父の遺符あるを肝心し日夜家術を学び一年洛陽に於て剣法吉岡と云者と仕逢をとけ忽勝利をゑて其名諸国に振い其後自徳を以て流段を改め実手当理流と名く娚の虎之助と云者を養て当家を令継其後入道して一真と改名す都三條に居住する事年あり然〆我が名を猶子に譲て後播州捐東郡に越姉聟栗原の何某を頼て暫く居住し於此所卒去す行年五十三歳 伝云一真光蓮和尚に願て支天慈眼之秘明を令相伝常身躰塵穢に不交朝日垢離を取常に潔斉〆已に蒙無常道を心懸甚孝心を尽す一生妻合を離〆専ら勇道を眼とせり 伝云一真吾流之高壇相続を思事切に〆我父の遣符せる大箱之開見を深く慎み殊更叔父が老年を歎て当家の巻器を従父吉虎に譲ん事を思へり彼れ吾と同歳たり雖然其器象大勇に〆天骨人に勝り必も向壇相続せは万人之師資と成て当道之後栄勿ん事を疑思惟し此旨伯父に談〆一子伝承之明道即吉虎に許譲せん事を述る雖然吉家深く此義を辞す頻に其存念を歎き誓て是を理す其無止事及して当流秘承愚息右馬之允に令付嘱是一真孝心之深き故家栄を思て私を去るの実也 吉家亦兄の遣命其重恩不忘内伝之秘術色胎之両壇并真剣兵道之二鏡不残一真士に令相伝殊更吉元之秘器剣印を渡すもの也尤も此比一真が左剣に合もの世に又なかりき 一真病に伏り期近きに至て哥を吟す
わたりつゝ越行みれは夢の橋 さむるすかたは今の一真
吉岡に勝て後
一心をいかてか人もさとらまし 是に極るひとつ太刀かな
秘哥一巻別書に有り 同宮本武蔵守藤原正勝 本氏栗原 字虎之助 正勝は無二之助の猶子也生は幡州損東の郡□瀬の居にて出生は本姓は栗原年僅十四のひより深く兵術を心懸其十五歳の春古今を出坂東に下り武者の難行を□行し長生に随て八州経廻して士薗の深底を尋ね其後下総の国に越て寺本坊権大僧都に願て兵法九字剣法の秘密を伝へ飛業奇特をあらわせり中比筑□に下向して益々執行を励し門葉数輩を倶ふ此時豊州の住日□無双岩流といゑる一刀に名高き者正勝が当国に来るを聞て威光を争ひ城下に札を立仕逢を□む正勝其志を感じ即答札を立別日を定時を約して長門国柳が浦と言小嶋に於て令剣闘彼は真剣也(青江作二尺七寸)正勝は木刀也 猶有思て切先五寸を短くして立向ふ誠に命期の一剣其長短を不論と云事歴然也列戦て岩流を即時に撃殺せり惜哉岩流強気を頼て兵理を空し已に命を縮む是よりして此所を岩流嶋と名く猶当国に震り其後法流を改手武蔵流と名く 傳云正勝自徳を以一流を選業術書巻太畧改む初中の手数僅三業となす初奥を一貫に理しめ向上壇剱ともに總て十一業也 傳云習章の口傳 ・目付を改む(稲妻)合双合一気之分 高上とす口伝 ・手の内を改む(繁組)浮沈色氣口伝を間の大事とす ・初段之三剱(光明 常無 常真)八重垣縛殺浮舟皆影之位也 手数九ヶ陰陽之至極短刀の口伝を以都合十一業と組也 傳云正勝木刀常に仁尺一寸余を好む門葉皆帯剱ともに是を定寸とせり是岩流を討節五寸を短しめ勝利を得其器理心に叶故に秘する所也 傳云正勝常に月剱之業作を好む亦兵器多々たくむ中にも金扇を秘し鉄心と名け持一尺弐寸也内に小剱を篭口伝 傳云正勝中比加藤清正卿の旗本出入しめ懇志を結び孫の伊織助と云者を養子として一流□傳し後に豊州小倉の城主小笠原右近太輔忠政卿之従属となす有器量身を立已に家臣と威り其累葉代を伊織之助と云り 傳云清正卿中比先蓮和尚に願て卯剱之口伝を受く亦常に鎌鑓を好て吉元を為師範月剱之口伝を受り其由緒に依て正勝を近け甚懇祐せり ・剱法相傳之内秘哥に云
早衣 左八つ右は九つ我破軍 むかふかたきの叶事なし
刀帯 わが太刀を取より初ておのつから 今そさとりの初め成ける
打出 かしま立ともへの道を行時は 向ふかたきはちりと社なれ
□氣 我も此□さきちかゆる神あらし きりてのたてをつくそふううん
同宮本無右衛門尉藤原正次 後に正勝と改む本姓水田 字虎法師 正次は前武蔵守正勝の猶子之生国筑後国水田の□後に肥後国宅す父正勝は豊州に居住しを国の士を門葉となす正次益々当流の奇業を学び已に九島無双の印紙を著す也 此門弟太畧肥筑の両国に多き也 ・巻章の秘奇に云
物夫はふたつの釼をみちにたた 身もとはなさす敵てさせ
花のひふとくに心の□そはる □入法を深く観せよ
同青木常右衛門尉藤原吉家 初元真 字熊之助 此人は武蔵守吉元の弟也兄入道せし折友に法体して元真と自改し其後大樹寺の法弟本誉上人に奉□顔受戒せしめ法名西蓮居士と改む吉元存生の間当家を頼て従属をまかす兄の宿痾に当流の明壇を相受し一流の中奥となれり後に生国河内国へ越て卒す行年八十六歳也 傳云円明之一流相承の上日夜令鍛錬已に当道三つ之大事を開語す一生勤め学んで自徳を以て巻章書冊秘器等数多を選都て一流の太底吉家正改而末目とせり口伝 傳云嫡子吉虎に教て一生豊国の霊神を拝む毎月十八日祭義を調ふ是吉元遺符する所也口伝 傳云躰剱の定寸を改む口伝 ・陽二尺五四三余一二 ・陰一尺八七六五二三 委傳は剱法之巻に詳也 傳云武道十二之大事を定む 巻符を傳て是を教ゆ口伝 傳云壇法之口決を選び武戒之門を建是を観符之傳と名く口伝 ・秘哥章の内
さす太刀の姿にはちよ物夫の 心の種も三つのしるしそ
兎に角にふたつの釼の源は 十一点の大事ありけり
寶器とは身にそふ釼の刃也 善悪不二の体をきわむる
命期に
伝へ来るふたつの釼をひつさけて 無常の敵を切捨て行
同青木与八郎藤原家真 後に常右衛門と改む 家真は前の常右衛門吉家の弟也兄入道の節其名をうく播州大坂に居住して
……[中略]……
かりにきてまたかりそめの花衣 色香をよしと見よやもろ人
ぬき捨て帰るすかたを誰も見よ その□けを□すみつるき
つたへ来る代々の聖の玉の鉾 身にそゑてしる国の御宝
雲はれて輝く月の寳釼を あきらかに見る事そ尊き
神の誓ひふかき流の我国は 春勝そ久しき君か代の松
妙なるや神のちかひはむらさきの いろふかき世の末も玉鉾
我か国の三宝の春勝を汲人は ひかりに神も立そ誓ひける
もろともに朽る形はたけれ□ 御法はつきし末の世よても
わたりつゝ越行みれは夢の橋 さむるすかたは今の一真
一心をいかてか人もさとらまし 是に極るひとつ太刀かな
早衣 左八つ右は九つ我破軍 むかふかたきの叶事なし
刀帯 わが太刀を取より初ておのつから 今そさとりの初め成ける
打出 かしま立ともへの道を行時は 向ふかたきはちりと社なれ
□氣 我も此□さきちかゆる神あらし きりてのたてをつくそふううん
物夫はふたつの釼をみちにたた 身もとはなさす敵てさせ
花のひふとくに心の□そはる □入法を深く観せよ
さす太刀の姿にはちよ物夫の 心の種も三つのしるしそ
兎に角にふたつの釼の源は 十一点の大事ありけり
寶器とは身にそふ釼の刃也 善悪不二の体をきわむる
伝へ来るふたつの釼をひつさけて 無常の敵を切捨て行
かけば鎌薙はなきなたつかは鑓 とにも角にもはつれさりけり
我□の松の藤浪近まして しとふになひく伊葉に□の勝
十五夜の月の光に道見らて また影そふる流星かな
五□□に沢□すすしきまこも草 水にしなゑる象にて勝
御前にて法師か鑓の月の輪に かけてたすくる□のかるもを
有かたやいのるしるしの叶来て 不動の利釼たのみてそ勝
神の守り深きちかひの叶来て 我大君の印紙給る
一葉の花のぜみふねに法を□て 西吹風にさそひ行身を
青柳のみとりの糸を振分て かせにしなゑる形にて勝
泪出の□も姿をあらわして 飛くる鑓を□てとゝまる
弓張の月の姿をそのまゝに はやくも入ぬ西の山の端
みてばかゝみたねは道の見□かねて いつれ半の月そ尊き
くろかねの楯もたまらぬ一つ太刀 無二亦無三有明の躰
獅子のいかり虎の荒も爪よせに 牙あらはなる象のたわふれ
君か代の治る国のしるしとて 世にも尊き御判給る
有かたやをのかみたまの末清く みくにの花に葉ははつれし
日の本も君に契をむすひ来て たのむしるしは後の世まても
日の本のあるしとあるく我君の ふかきなさけに大坂の山
三つまなふ位は世にもなとあらし 是そひしりの神に受来る
あめか下我薙刀に誰かあらん □なかけそ雲に浮はし
弓張の月そ名にあふ姿にて いのる誓に叶ふ嬉しさ
九所ある内ははづれし頼あり 名に大坂の□に□へし
大坂の山ふみ出て死出の旅 三つの川きりはらふ薙刀
おもひこむひとそちあらし千□にも 心の外もたつねしれ人
亦あらし心に法の花のゑん 色香を外に何か尋む
道柴のかすさまさまにかわれとも 雲井は同じ月のかつらを
人のうえ手本とすれは智も出て 物くも切の武士とこそなれ
たとひ人天魔と成て来るとも 心を直に持はあたせし
また藝のいたらぬとてもこころをは ふかく嗜め物夫の道
兵法のふたつを常に守るこそ 是万法のみなもととしれ
槁太刀をよくゑらひつゝ短刀の かるきを好みうてたてなしそ
長太刀のおもきを好み大鍔や うてたて好む人は物かわ
水の泡萩の上露あたし世に かりにやすらふ物夫の業
かすかすにあたりて願ふ行末そ 法の心に花もひらくる
武士の道そ如夢幻泡影と 露いなびかり應作如是観
流行浮木にしはし休居て 源ふかき事をこそしれ
切突のふたつにあわん水影は 心ひとつの勝をそこしれ
花薄まねくお□を人かとて 心の外に立そとゝまる
油断をはなしてあしきは兵の道 また後の事を□
心をはみかきみかきて直にもて かならす天のめくみあるへし
□人の道ふみ□ふ事とては 酒ばくゑきに杯女小人
表衣の悪くあるとも氣にかけす 一重の□つもみつきよくきよ
身本をは常に嗜清らかに 匂ひも□をもめにたゝぬ程
我家を頼て代々につかふ武士 それ悪くとも見捨はしすな
ゑらふともよきは少き人こゝろ 我身を□ふ心はせ□よ
よき事もひと□にすく人の上 かならす悪事出来としれ
はかりなく輝く神の妙体を ことわりしらてさすは武士かわ
水の月移る形のかすかすに むすひて影のなきを怯
物夫は運の一事そ大事成 よくおこたらす祈れ運命
石のひつ鉄の岩屋にこもるとも 無常の□ふせく人なし
露の命うつゝの身とて世をはけに むなしく過す人そはかなき
うつゝふとみしかき世わを嗜て 一時の勤て怠なしそ
法の花ひらけそめにしいにしゑは 薪水汲つかへてそしる
はちす葉の濁にそまぬ心こそ たとゑにあまる法の高ひふ
いにしゑの賢き御代の良勇も 名のみ勝りて見る人そなき
朽はてぬ名こそ虎の上の鐘の音に きよろつ代の数に入れん
兎に角に誠そ朽ぬ法の道 まか□て家を守れもろ人
幻とも夢ともしらぬ兵の道 二十年卅年を越てこそしれ
卅年四十年越てそ□む峯の月 すめる形にうき雲そなき
こゑやらて同じ雲井と詠む人 闇路の山に速ふたひ人
だいなんも大くもいかに何ならす 本より捨る□中のしん
あし原や神の守の深き世に たのむしるしそ有明の月
若しみを拂ふみのりの鐘の音に 心の闇をはらしこそすれ
心ひとつよくもきわめし折にこそ 佛も兵も法もしろたへ
老の山ふみわけて待かり人の かけみる時そしゝはおちけり
捨てしる後の心そ清瀧の 流たゑせぬ水のすへすへ
近を取憂をやすめて運の太刀 つかふに不意を討人そなき
おもてをはやわらかにもち心をは 金剛石と常に観せよ
剱先の形をかさす折ならは 鬼神成と□れはしすな
三つの傳五つの大事弁ゑて 我とひとしき人にさつけよ
傳ふ来る代々の身蔵の玉の戸を 心とひらく事そ尊き
我家の奥の大事のけんごしん 誰か傳へん誰か守らん
よにも又たくひあらしな我家の 三つのひかりのたまの寶劔
いんふとわ形にあらす形あり 神符の口傳ためし有世を
みすもあらしみのすもいかになとあらし 心とみかく智恵の身鐘
身のたふる三つの傳受の玉よりも ふしきにひかる胸の八葉
夢のなた苦海の瀬戸をこき過て やかてつくへき法の□□
老の山花のさかりもいつとなく ちりてかすみに勝す梅の音
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